「前回の車検では、このままで通ったんですけど……」
車検の仕事をしていると、実際にこう言われることがあります。
結論からいうと、前回の車検で通ったからといって、今回も同じように通るとは限りません。
車検では、今回検査する時点の車が、その時点で適用される基準に合っているかを確認します。
そのため、前回と同じ状態に見えても、今回あらためて確認した結果、そのままでは通らないことがあります。
ただ、車に乗っている側からすれば、
「何も変えていないのに、なんで?」
と思いますよね。
実は「前回通った」という情報も、まったく意味がないわけではありません。
20年以上、整備や車検に関わってきた経験をもとに、「前回通ったのに今回はダメ」と言われることがある理由を説明します。
同じ状態に見えるのに、なぜ判断が変わることがある?
車検には、保安基準や審査規程など、合否を判断するための基準があります。
ただ、実際の車では、一目見ただけでは基準に合っているか分からないものがあります。
たとえば、
・タイヤやホイールがフェンダーから出ているように見える
・最低地上高がギリギリに見える
・社外品のランプが付いている
・純正とは違うマフラーが付いている
といったケースです。
こうした部分は、実際に測ったり、詳しい資料を確認したりしなければ分からないことがあります。
前回は問題ないとされていても、今回詳しく確認したことで基準に合っていないことが分かる場合があります。
反対に、一見すると難しそうでも、詳しく調べた結果、問題ないことが確認できる場合もあります。
また、車検に関する基準や取り扱いが変更されることもあります。
人が確認する検査なので、前回確認されなかった部分が、今回あらためて確認される可能性もあります。
だからといって、「車検は見る人によって好き勝手に合否が変わる」ということではありません。
基準は共通でも、実際の車に当てはめると、測定や詳しい確認が必要になるケースがあるということです。
タイヤ・ホイールのはみ出しは判断が難しいこともある
私が実際に「前回はこのままで通った」と言われたことがあるものの一つが、タイヤやホイールのはみ出しです。
明らかにフェンダーから出ていれば分かりやすいのですが、ギリギリの場合は見た目だけでは分からないことがあります。
私の場合は必要に応じて測定する範囲を確認し、フェンダー付近から糸を垂らすなどして測ることがあります。
タイヤの場合は確認する範囲も決められていて、タイヤ中心から前方30度、後方50度の範囲などを確認します。
実際にやってみると、意外と細かい測定です。
「前回はこれで通ったんだけど」
という場合でも、今回あらためて測定して基準に合っていないことが確認されれば、前回の合格だけで今回も問題ないとは判断できません。
そして、ここで勘違いしやすいのが、
「タイヤは1cmくらい出ていても大丈夫」
という話です。
2017年に取り扱いが変更され、一定の乗用車については、規定された範囲の最外側がタイヤとなる部分なら、車体から外側への突出量が10mm未満の場合は「突出していないもの」とみなす取り扱いがあります。
ただし、これはタイヤ部分についての話です。
ホイールなどまで同じように10mm未満なら大丈夫、という意味ではありません。
また、すべての車に同じように適用されるものでもありません。
そのため、ネットなどで見かける「タイヤは1cmまで出ても車検OK」という情報だけでは判断しにくいところです。
タイヤなどの回転部分が車体から突出することを規制している背景には、歩行者の衣服などを巻き込む危険を防ぐという安全上の考え方もあります。
「何mmまで」という数字だけでなく、こうした理由を知っておくと分かりやすいと思います。
「前回通った」と聞いて、実際に確認したこともある
以前、車体の後ろからマフラーが突出している車を検査したことがありました。
その車を見たとき、私は、
「この状態で保安基準上、本当に問題ないのだろうか?」
と疑問に思いました。
ここで、その場で「車検には通らない」と判断したわけではありません。
マフラーや排気管は、一定の条件では「指定部品」として扱われます。
少し難しい言葉ですが、取り付け方法などの条件によっては、部品を取り付けたことで車の長さなどが変わっても、車検証の記載事項の変更や構造等変更検査の手続きが不要になる場合がある部品です。
ただし、指定部品だから何でも車検に通るという意味ではなく、保安基準への適合は必要です。
そのため、そのマフラーについても「指定部品だから大丈夫」「車体から出ているからダメ」と、その場で決められるものではありませんでした。
そのとき、お客さんから、
「前回はこの状態で運輸支局へ持ち込んで車検に通っている」
という話を聞きました。
そこで実際の車で確認することになり、時間がかかることを説明したうえで、運輸支局へ車を持ち込みました。
結果として、その車については問題ないという確認が取れました。
この話は、「車検は見る人によって合否が変わる」という意味ではありません。
実際の車には、後付け部品の種類や取り付け状態などによって、その場ですぐには判断しにくく、詳しい確認が必要になるケースもあるということです。
また、この車が問題なかったからといって、
「指定部品のマフラーなら、どれだけ突出していても大丈夫」
ということでもありません。
その車の状態に応じた確認が必要になります。
このように、「前回通った」という情報が、あらためて確認するきっかけになることもあります。
前回通ったのに今回はダメと言われたら?
「前回は同じ状態で通ったのに、今回はダメと言われた」
そうなれば、「どうして?」と思うのは自然なことだと思います。
そんなときは、
「前回の車検でもこの部品は付いていたのですが、今回はどこが基準に合わないのでしょうか?」
と確認してみると、今回ダメと言われた理由が分かりやすくなります。
実際に測定した結果、現在の基準に合っていないのであれば、修理や調整、部品交換などが必要になるでしょう。
一方で、先ほどのマフラーのように、前回の状況が分かることで、もう一度詳しく確認するきっかけになることもあります。
「前回も同じ状態だった」という情報だけで今回の合否が決まるわけではありませんが、確認するときの参考にはなります。
もし「前回は通ったのに、今回はなぜダメなの?」と思ったら、今回はどの部分が基準に合っていないのかを確認してみてください。
理由が分かれば、本当に修理や調整が必要なのかも判断しやすくなると思います。
車検は、前回の合格をそのまま引き継ぐものではありません。
前回の結果も参考にしながら、今の車が現在の基準に合っているのかを確認する。
「前回は通ったのに……」と疑問に思ったときは、まずそこを確認することが大切だと思います。


